2017年10月28日土曜日

スティールパンの惑星


俺は映画を見ないと言っているのに
懲りずに勧めてくる前職の友人がいて、
この映画どうですかと言ってきた。

スティールパンは長年、地味~に気になっていたので
これは一気に挽回できるかも!見たい!と思った。
何を挽回って、なんかあれですよ、好奇心と知識の距離。
知りたい度と知ってる度の差。

一緒に見に行こうと言っていたが、上映が今月までなので
友人の予定が合わないとのことで
一人で行くことにした。

一人だったらやめるという日本人が非常に多いと思うが、
ここが分かれ道なのである。
一人だったらやめるという人は、僕はだいたい友達になれない。

というか僕もたまたまギリギリ予定が合ったのでよかったようなものだ。

ネットで予約画面を見てみると、席が40くらいしかない。
マイナー映画とは聞いていたがこれは初めての空間に違いない。
ますます興味が湧いてきた。

当日分は予約できないようになっていたので(お友達のライブとは違う)
まだ空きがあるのかもよくわからず、現地へ向かう。

渋谷駅から早足で10分と、渋谷にしては外れたところにある
小さな総合アート施設と形容すればいいだろうか、
そういう、サブカルの吹き溜まりのような場所だった。

幸いまだ席は空いていて、5列くらいある中の3列目にした。
6列あったかもしれない。
シアターに入ってみると、通路から手が届くような距離にスクリーンがあり
カーペット張りの床にゆったりとした椅子が整列して並べられていた。
初めてライブハウスに来たときの気持ちに似てる。
こんな近くで見れるんか。

いずれにせよ、3列目の椅子は僕の苦手なビヨンビヨンなるタイプで、
これは痛恨のミスであった。
ちょっと酔う。

席は8割くらい埋まっていた。
前々から予約状況を確認していた感じでは結構ガラガラだったのだが、
あれは秋の長雨と台風のせいだったのかも。

そして20時50分に映画が始まった。
洋画を映画館で見るのは初めてか。
音声はそのままで、字幕付きだった。

アクション映画好きの友達が言ってたとおり、
字幕を見てたら画面を見れなくはないが見逃す部分がある。

標準英語はほとんど聞き取れるが、
字幕が出ているので翻訳チェックをしてしまう。
おぉ、さすが映画翻訳は意訳の質が高い。

なんで仕事帰りにまた翻訳チェックやねんと思いながらも
無意識なので仕方ないのだ。

20、30分はチェック作業で非常に疲れた。

そのうち、ナレーターとアメリカ人の言ってることしか聞き取れないことがわかってきた。
トリニダード・ドバゴという南米の国が舞台で、
現地の人の英語はすごく訛っている。
フランス人も出てきた。
いよいよ純粋に字幕を見るしかない。

字幕のことはこれくらいにして、物語について。

スティールパンは20世紀に発明された楽器。
(パン、スチールパン、スチールドラムとも)
植民地でしいたげられていた肌の黒い民族の少年たちが、
オイル工場からドラム缶を盗んできて叩いて音楽してたのが始まり。

石やハンマーでボコボコにへこませると、
叩く場所によっていろんな音階を生み出せることがわかり、すぐに大人気になった。

その音楽がやがて中間層や富裕層にも認めれられていくのだが、
もともとの治安が悪いため、ライブでも暴力沙汰が当たり前だった。

地域で幅を利かせているスティールパンバンドが、
自分よりいい演奏をしたバンドの楽器を取り上げて蹴とばしたりしていた。
それくらいならまだいいが、ナイフや、ひどい時には銃を持っていたりしたそうな。

復讐は連鎖して結局、本格的な傷害事件が起こってしまった。
刺された方が一命をとりとめたのでまだよかった。
これを機に喧嘩は終わりにしようという方向となり、
スティールパン協会なんてのも設立され、みんな純粋に音楽を戦わせるようになった。

トリニダードでは毎年スティールパンバンドの大きな大会があって、
そこで頂点を取るために海外からも多くのプレイヤーが参加していた。
アメリカ人、フランス人、日本人が紹介されていたが、彼ら以外にも大勢。
1バンド40人くらいいて、機材も大掛かりなので、
負けたチームも準備を手伝ったりする。
17バンドも出ていたので人だらけ。

アメリカ人のバンマスのような人がこんなことを言っていた。
「ミュージシャンは自分の個性を紡ぎ出すことをやめてはならないんだ」
「この楽器はもともと反体制から生まれたんだろ? 常套句とか繰り返しに甘んじて楽曲をアレンジするとか、全く意味がないよ」
(うろおぼえ)

みんなもれなくアツいんやけど、この人は言葉に換える能力がすごく高かった。



いやしかし音楽に暴力が絡むなんてのはあんまり考えたことがなかったです。
音楽で負かされて怒ってボコられるとかおかしいよな。
でもそれが普通にあったんやん。
黙って音楽で勝負できるというのがいかに恵まれているかがわかった。

僕らみたいなミュージシャンは売れようとか思ってないけど、
どれだけ個性を上手に表現できるかを競っているのは間違いない。
当然、演奏のレベルもモノを言う。
音楽は勝ち負けじゃないとは思う中で、
姿勢を正すことを忘れてはいけないなと思わせられた。
そんな映画だった。


※見たまんまであり、調べものをしてませんので
 映画の内容は参考程度に。